「私が見たいのはお金。家を持ってるからってどうやってご飯を食べれるの?」

ベルリン

移民局へビザの申請に行って来た。

結果は資料不足ということでビザの発給をしてもらえず。

移民局に着いたのは午前3時前。

もちろん陽が登っているわけもない夜空の下ですでに20人を超える人たちが集まっている。察するに難民の方々なのだろう。

並び始めたその列に混ざることもなく別の場所で待っている僕たちに1人の男性が走って近づいてくる。

「君達も向こうに並ぶといい。そこでチケットをもらうんだ。」

そう彼は告げる。

「僕たちはワークビザの申請に来ているのだけれど、それでも並ぶ必要があるのか?」

「ビザの申請をするなら並ばなきゃ!!」という彼の意見を聞き列に並ぶことに

門の中には白いテントが張ってある

自分の並ぶべき列ではないと自覚しつつも門が開くのを待っていた。

4時を回る頃に開いた門の中へ押し合うこともなく実に礼儀正しく進む列

一足早く中へ入り、出て来た先ほどの男性に妻がもう一度礼を告げると

「幸運を」と笑顔で告げる彼

午前4時を回った暗闇には実に眩い姿だった

暖かなテントの中で時間を潰し、5時半を回る頃

本来の門の前へと向かう

やはりそこには数名の方がすでに身を固めている

陽の昇り始めたばかりの春の朝だ

暖かさから寒さへと戻った夫婦も身を小さくした

6時になり門が開き、各々がそれぞれの目的地へ進む

ここでは先ほどの礼儀とは無縁の行動も目に入る

7時になり、それぞれのドアが開くと運動会が始る始末

この日僕はフリーランスのビザを申請しに来た。

ドイツ語を話せない。受け付けていた数名の職員は態度と声の大きさをもって明らかな変化を見せてくれる

僕のいた場所は朝7時のヨーロッパでは大国と言われる一国の首都のイミグレーションオフィスだ。

整理券をもらうとすぐに番号があがり、表示された部屋へ

相対したのは先ほどの受付にいた1人の女性

挨拶への返答も無く資料に目を通す

最初の質問は自身の持つ財産への証明書が見当たらないが?だった

銀行の残高に加え、日本で保有している家、土地についても念の為記載していたのだ。

固定資産の証明だと言って渡した紙に目をやったかと思うと

それを投げた

おまけに口からも投げ捨てた

「私が見たいのはお金。家を持ってるからってどうやってご飯を食べれるの?

なるほど。

僕は推薦状も持って行った。

ドイツの会社との契約書と推薦状、ドイツ人の仕事仲間で友人でもある方からの推薦状、1日で800€頂ける仕事の依頼書、その他10名程の方から頂いた一緒に仕事がしたいという内容のメールのコピー。

それら全てに目を通したかは定かでは無いが

「メールなどいくらでも自分で作れるし、明確にどれだけの額が稼げるのかが分からないので効力は無い」

だそうだ。

履歴書に目を通し、作品のポートフォリオにも目を通したが

「履歴書なんてどうとでも書けるし、本当にあなたの仕事かどうか分からない。」

つまりお金をたくさん持っていて、稼げる仕事で明確な給与額を提示しろと。

見たいのはそれだけだと。

面白いことに今までにアタッシュケースにお金を詰めて持っていったという人の話を聞いたことがない。

残高証明の金額が本当に自身の物だと言える証拠は無い

オーストラリアのビザを申請するのはコンピューター相手だ

どこに行く必要も、夜明け前から身を小さくして待つ必要もない

”あの”仕事とは何なのだろうか

人を前に人と向き合えないのであれば

自分がテクノロジーに飲み込まれるのを怯えなければいけない

自身が使っているお金にどんな意味があり価値があるのかを

熟考し理解しなければ、お金は働いた時間に対しての産物に過ぎなくなってしまう。

決してあなた自身への対価では無い

 

 

帰宅途中に行きつけのケバブ屋による

言葉ではコミュニケーションの計れない両者が互いに笑顔を作る

「いつものだろ?」と注文する前から作り始める店主

妻の被っていたキャップに手をかけ自分の頭に乗せたかと思うと

写真を取ってくれと催促している。

裏へ消えたかと思うと途中から加わった妹の分まで

3つの紅茶を運んでくる

「トルコでは一般的でお腹に良いんだぞ」

とジェスチャーで伝えてくれる

おまけにお会計を済ませている横で妻が気になっていたスイーツが何か尋ねると

ニヤニヤしながらその小さなスイーツを笑顔で1人づつの手に乗せてくれる

そこに存在するのは確かな温もりである

それが「顔見知り」の仕業だとしても

僕らの彼への対価が

金額では計れないのは明白である